今日はなんか走りたくないな

しかしいくら長い距離を走ることが性に合っていると言っても、やはり「今日は身体が重いなあ。なんとなく走りたくないな」という日はある。というか、しばしばある。そういうときにはいろんなもっともらしい理由をつけて、走るのを休んでしまいたくなる。オリンピック・ランナーの瀬古利彦さんに一度インタビューをしたことがある。現役を退いてS&Bチームの監督に就任した少しあとのことだ。そのときに僕は「瀬古さんくらいのレベルのランナーでも、今日はなんか走りたくないな、いやだなあ、家でこのまま寝てたいなあ、と思うようなことってあるんですか?」と質問してみた。瀬古さんは文字通り目をむいた。そして<なんちゅう馬鹿な質問をするんだ>という声で「当たり前じゃないですか。そんなのしょっちゅうですよ!」と言った。
(村上春樹「走ることについて語るときに僕の語ること」より)

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