それに比べたら、近所を一時間走るくらい、なんでもないことじゃないか。

個人的なことを言わせていただければ、僕は「今日は走りたくないなあ」と思ったときには、常に自分にこう問いかけるようにしている。おまえはいちおう小説家として生活しており、好きな時間に自宅で一人で仕事ができるから、満員電車に揺られて朝夕の通勤をする必要もないし、退屈な会議に出る必要もない。それは幸運なことだと思わないか?(思う)。それに比べたら、近所を一時間走るくらい、なんでもないことじゃないか。満員電車と会議の光景を思い浮かべると、僕はもう一度自らの志気を鼓舞し、ランニング・シューズの紐を結び直し、比較的すんなりと走り出すことができる。「そうだな、これくらいはやらなくちゃバチがあたるよな」と思って。
(村上春樹「走ることについて語るときに僕の語ること」より)

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